ずっと握り締めて、私は貴方を待っている。
些細な喧嘩だった。連絡がなかなかつかなくて、少しイライラしていた。
「―――…ばかぁ……」
ソファに投げつけた、換えたばかりの携帯電話をずっと睨んでは、瞳が潤む。
今日は何の日か憶えてるでしょ?付き合ってやっと1年経ったんだよ。
なのに男友達と飲みに出掛けるとか言い出して…仕事ならまだ許せるけど、私の存在って何?
最初の頃は、頻繁にしていたメール。
時々声が聴きたくて、逢いたくて、電車を乗り継いで逢いに行ったことなんて当たり前。
ねぇ…いつから私達、業務連絡もどきなメールしかしなくなった?
「早く来い……待ってるんだから…」
そう呟いても、電話してるわけでもない。ましてやメールでもない。
逢いたいの。
やっぱり貴方に逢いたいと、伝えたいのに。
投げ付けた携帯をそっと手に取り、握り締める。
不意に零れた涙はもう止まらなくて、抑えられなくて、どうしようもなくて…。
ただ、胸に抱き締めるように…そのまま声を殺して泣き続けた。
「―――………っ。…ねぇ…早く来て……っ」
弱いのは私。
だって好きなんだもの。
「…く、るしいよ……好きなの…っ、逢いたいのぉ……」
求め続けてもあの人は来ない。
大嫌いって言ってしまった。
好きなのに、嫌いって……。
嘘を付いてしまった。
『ばぁか』
声がした。
投げた携帯電話から。
(……え?)
『まぁ…ばかは俺の方か』
うそ…っ。
投げたと同時に電話が繋がってしまったらしい。
てことは、さっきの私の言葉も―――。
私は慌てて携帯を耳にあてた。
「も…もしもし…っ」
『もうすぐそっちにつくから、待ってな。ケーキ買ってきたし』
「ずっと聞いてたの!?」
『んぁ?ああ、聞いてたぞ』
…無性に恥ずかしくなって私は言葉を失った。
な、なんていえばいいのか…えっと。
『…ごめんな』
不意に、謝られて。
余計に何も言えなくなる。
『今日は、一緒にな』
「……うん…」
『じゃ、またな』
そして電話を切って、力が抜ける。
「もぉ…ばかぁ…」
さっきも言った言葉を、違う意味で私は呟き、涙を流した。
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